通称サビ残とも呼ばれるサービス残業は、多くの会社で当たり前のように行われており、長時間の労働や未払いの残業代に多くの人が頭を悩ませています。
サービス残業は、明らかな違法行為です。会社は何かしらの理由を付けて残業を求めてきますが、正当な理由ではないことがほとんどです。
今回は、サービス残業がなぜ違法であるかについて解説します。また、サービス残業が横行している業界や、サービス残業が行われる理由、サービス残業を解決する方法も紹介するため、ぜひ参考にしてください。
1.サービス残業は当たり前ではなく違法なこと

サービス残業とは、法定時間外の労働、つまり残業を行っているにもかかわらず、残業代が一切支払われないことを指します。
通常、時間外労働には割増賃金を払わなければなりません。しかし、割増どころか残業代自体を支払わない業界は多数存在する状況です。
サービス残業でよく見られるケースには、以下のようなものがあります。
・定時でのタイムカードの強制的な打刻
従業員にタイムカードを定時に打刻させて、「仕事が残っていることは能力不足」「作業が遅いから」など、何らかの理由を付けて残業を行わせることは、サービス残業を行っている企業の常套手段です。
記録上では定時上がりとなるため、サービス残業の証拠を残さない悪質な手段と言えます。
・定時前の業務開始
定時以降の労働だけが残業と考えられることを逆手に取った手段も少なくありません。このような会社では、定時前に朝礼や掃除、業務準備などの名目で早めに出社をさせていることが多い傾向です。
定時前であっても、会社の指示により出社をさせれば時間外労働となるため、会社は割増率をかけた賃金を支払う義務があります。
・持ち帰りの仕事
持ち帰りの仕事は会社の外であることから、残業であるか否かの判断があいまいとなる難しいパターンです。この場合、会社からの指示があれば残業扱いとなりますが、自己判断で持ち帰った場合は残業として認められないケースがあります。
あいまいさや社会人としての責任感を逆手にとって、過剰な仕事量を押し付けるなど、意図的に持ち帰りを悪用している会社も多数存在します。
・名ばかり管理職
通常、管理監督者とは役職の肩書きと権限を持った管理職のことを指します。しかし、中には、一般の従業員を名目上だけ管理職として扱い、名ばかり管理職とする会社も珍しくありません。
名ばかり管理職を行っている会社は、従業員に管理職として過剰な責任や業務量を押し付けるだけでなく、残業代を支払わない傾向にあります。これは法律の裏をかいた悪質な手法で、サービス残業によく見られるケースです。
1-1.労働時間の原則
労働基準法第32条では労働時間の限度が定められており、1日8時間、1週間40時間までを限度としています。
これは、法定労働時間と呼ばれており、会社が定める所定労働時間は法定労働時間の範囲内としなければなりません。
労働基準法第32条には例外が認められており、同法の第36条にて労使間での協定の締結と行政官庁への届け出を行えば、法定労働時間を超えた労働を行うことができると定められています。労使協定は、36協定(サブロク協定)と呼ばれます。
36協定がない場合、会社側は労働者に残業をさせることができません。また、36協定が締結されている場合においても上限が定められており、上限時間を超える残業を命じることはできません。
36協定に該当する法定労働時間を超えた労働は時間外労働扱いとなり、会社側は当該労働時間に対して、割増料率を加算した労働賃金を労働者に支払う必要があります。
残業代を一切支払わずに残業を命ずるサービス残業は、これらの労働時間の原則に反しており、労働基準法違反となります。
1-2.残業代の不払いは違法
残業が36協定に則った時間内であったとしても、残業代が支払わなければもちろん違法となります。労働基準法第37条にて、会社側は時間外労働を行った労働者に対して割増賃金を支払う義務が定められているためです。
労働者に残業代を支払わなかった場合 、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。また、労働基準法第24条では賃金は所定の支払日に全額支払うことが定められており、残業代を含む賃金の支払いを遅延したり分割したりする場合も、30万円以下の罰金が科されることとなります。
罰則は会社や経営者だけでなく、残業を指示する立場の者や監督者も対象となる場合があります。
残業代の請求には3年の時効が設けられています。そのため、サービス残業が行われている会社で残業代を請求する場合は、時効分の金額が請求できなくなる前に対処しましょう。
2.サービス残業が多い業界

サービス残業が行われる業界は、業界の構造や業務上の性質が大きく関係しています。
サービス残業が行われやすい業界には、以下の5つが挙げられます。
・IT関連
IT業界は製品開発単価を人件費×工数で算出する傾向があり、企業の出費の多くを人件費が占めることから、人件費削減のためにサービス残業が行われやすい業界です。
また、慢性的な人手不足や無理な短納期、障害対応といった長時間労働を招く業務上の理由も、サービス残業が行われる原因となっています。
・チェーン系の飲食店
ほとんどの飲食店は、一般的な企業が就業時間を終えてからが忙しくなる営業時間帯です。飲食業界は営業時間が長く、営業時間外も仕込みや片付けといった作業が発生することから、長時間労働が慢性化している業界です。
飲食系企業は、経営を圧迫する人件費を削減して、労働生産性を上げるためにサービス残業を強いるケースがあります。売上に対する利益率の低さも、サービス残業が発生する大きな原因となっています。
・土木・建築関係
土木・建築関係は、施工前に予算とスケジュールを決める傾向がある業界です。工事がスケジュール通りに進まない場合が多く、また無理な納期を設定される場合もあるため、サービス残業が頻繁に行われていると言えます。
業界の特性上、予算の範囲内で工事を済ませる必要があるため、イレギュラーが発生した場合は人件費を削減して調整することも少なくありません。
・保育士
保育士は賃金のわりに仕事量が多く、想像以上にハードな業界として知られています。子どもを預かる業務時間内は、現場の実務に追われるだけでなく、書類作成や行事ごとの準備もこなさなくてはなりません。
これらの関連業務は、時間外や持ち帰りのサービス残業で対応せざるを得ない保育士が多いことが現状です。
・介護士
介護士も保育士と同様に低賃金かつ長時間労働になりやすいことから離職率が高く、慢性的な人手不足に陥っている業界です。介護現場では一人ひとりの負担や業務量が多く、消化できない仕事はサービス残業で対応している人が多い状況です。
サービス残業は違法行為であり、残業代を請求することは労働者として当然の権利です。アクションを起こし、サービス残業が行われている状況が改善されれば、業界の健全化にも繋がります。
3.サービス残業が当たり前のように行われる理由
サービス残業が当たり前のように行われている現状には、いくつかの理由があります。
ここでは、どのような理由があるのかについて解説します。
・人件費の抑制
最も大きな理由として、人件費の削減が挙げられます。人件費は企業活動において大きな固定費であり、割増料率で支払わなければならない残業代についてはさらに負担が増します。
経営を圧迫する人件費を抑制するために、サービス残業を強要する企業は珍しくありません。
・人手不足
募集しても人が来なかったり離職者が多かったりといった理由で、慢性的な人手不足に陥っている会社では、長時間のサービス残業を従業員に行わせている場合があります。
このような会社は従業員の不満から次々に人がいなくなるため業績が悪く、企業側も残業代を払えないといったケースもあります。
・経営者・人事担当者の認識不足
経営者や人事担当者に法令やコンプライアンスを遵守する意識や、これらに関する知識が浅く、会社が決めたことは何をしてもよいという状況の会社もあります。
そもそも違法行為であるという認識が無いため、サービス残業の時間が著しく長い会社もあります。
・長時間労働は美徳などの価値観
長時間残業を美徳としていたり根性論が根付いていたりすることが、サービス残業が行われる理由になっていることもあります。
こうした価値観は社風として長年根付いているため、ベテラン社員はその状況に違和感を感じていないことがよくあります。
・企業と労働者の力関係
本来、企業と労働者は対等の立場にありますが、会社組織の性質上どうしても労働者のほうが立場は弱くなります。明らかに違法なサービス残業や残業代未払いが行われていても、不当な扱いを受けたり解雇されたりといったリスクがあるため、現状を受け入れている労働者も珍しくありません。
4.サービス残業を解決する方法

サービス残業が慢性的に行われている企業では、個人が意見を述べた程度では軽くあしらわれる可能性が高く、状況を改善することは非常に困難です。
ここからは、サービス残業を解決する方法について解説します。サービス残業を改善したい人や、未払いの残業代を請求したい人は、ぜひ参考にしてください。
4-1.人事部やコンプライアンス窓口への相談
社内でサービス残業の問題を解決したい場合は、人事部やコンプライアンス窓口へ相談することもひとつの方法です。やむを得ない状況下でサービス残業が発生している場合は、業務改善や労働条件の改善等に働きかけてもらえることがあります。
ただし、この方法は勤務している会社次第である点に注意が必要です。人事部やコンプライアンス窓口は会社組織の一部分であるため、意図的にサービス残業が行われている場合や、経営陣との力関係で機能していない場合には、サービス残業の改善が期待できない可能性があります。
4-2.労働基準監督署への相談
サービス残業の時間が著しく長く、未払いに相当する残業代の金額が大きいなど、会社の違法性があからさまである場合には、労働基準監督署へ相談する方法もあります。
労働基準監督署は、会社の違反行為に対して勧告や指導を行うことが業務であり、実際に労働者側からの告発や情報提供で会社に指導が入り、サービス残業問題が解決された事例もあります。
ただし、労働基準監督署は、個人的な事情にまでは対応してくれません。労働基準監督署にサービス残業を相談する場合は、会社が違法行為を行っていることを証明する証拠を提出したり、同じサービス残業の悩みを抱える複数人の労働者で協力したりする方法がおすすめです。
4-3.弁護士への相談
これまで紹介した方法は、コストをかけずに実行することができます。しかし、必ずしもサービス残業の問題が解決して、残業代が支払われるとは限りません。確実性を求める場合や、サービス残業の改善を強く求める場合は、労働問題に明るい弁護士へ依頼することがおすすめです。
社会保険労務士も労働問題を取り扱っていますが、主に企業寄りの職務内容であることに加え、交渉を代行してもらえないといった制限があります。
一方、弁護士であれば、サービス残業などの違法行為の解決から未払い残業代の請求まで、幅広く対応してもらうことが可能です。企業との交渉も依頼人に替わって行ってもらえるため、万が一労働紛争に発展した場合にも対応してもらえます。
弁護士に依頼するなら、「千代田中央法律事務所」がおすすめです。労働問題に幅広く対応しており、多くの問題を解決してきた実績があるため、安心して依頼することができます。サービス残業については、千代田中央法律事務所へ相談してみてはいかがでしょうか。
まとめ
サービス残業が行われている会社では、その状況が当たり前だと考えられていることが多い傾向にあります。
やむを得ずサービス残業が発生している場合を除いて、労働者側から声を上げなければ、このような状況が改善されることはまず期待できません。
残業代を請求することは、本来支払われるべき賃金を取り戻すことであり、労働者にとって当然の権利です。
サービス残業の改善を希望する場合は、まずは労働問題のスペシャリストである弁護士に依頼してみてはいかがでしょうか。