SEは残業代請求ができる?IT業界の残業が多い理由や請求方法も

SEは残業代請求ができる?IT業界の残業が多い理由や請求方法も

政府主導の働き方改革により、さまざまな業種・職種で残業に対する考え方やシステムが変わりつつあります。一方で、実働に見合った残業代が現在も未払い状態であることに悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

たとえば、SEのように業界特有の環境ゆえに適切な労務管理が行われず、勤務時間の把握が困難となる場合もあります。

今回は、未払いの残業代に心当たりがあるSEの方へ、IT業界の実態やスムーズに請求するためのポイントを紹介します。

1.SEの残業が多い理由|IT業界の実態

SEの残業時間が多い傾向にあることは、厚生労働省が発表した資料でも触れられています。資料によると、電話相談サービスを利用する29歳以下の若手SEの多くが、長時間労働に関する悩みを抱えていました。

出典:厚生労働省「過労死等の実態解明と防止対策に関する総合的な労働安全衛生研究」

長時間労働に関する問題は、29歳以下の若手に限らず、全年齢層のSEひいてはIT業界全体に見られる特徴です。SEの残業時間に関する具体的な調査結果も、下記のとおり発表されています。

システムコンサルタント・設計者
所定内実労働時間数超過実労働時間数
165時間12時間
ソフトウェア作成者
所定内実労働時間数超過実労働時間数
166時間11時間

出典:厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査」

調査結果だけを見ると、残業時間は少ないように感じられます。しかし、厚生労働省は実際の残業時間が少なく報告されていると考えており、本来の数字はさらに増加する可能性があります。

SEの残業が多くなる理由は、下記のとおりです。

  • IT業界自体が残業の多い傾向にある
  • 厳格な納期に合わせるため残業となりやすい
  • 納期直前に仕様変更が生じることがある
  • 人手不足で一人当たりの業務量が多くなる

SEに限らず、IT業界自体が長時間労働を日常的なものとして捉えている傾向にあります。現在は上司の立場となっている人物も、残業を繰り返す中で昇進した背景があるため、企業や部署に残業文化が根強く残っている状態です。

また、IT業界特有の納期厳守という考え方や仕様変更の要望が頻発することも、労働者の残業を増やす要因となっています。突然のトラブルや修正・変更作業に対応しつつ、納期を守るためにやむを得ず残業を繰り返す現場は少なくありません。特殊な労働環境ゆえに人手不足が生じやすい点も、残業時間に影響しています。

ただし、SEに残業を含む長時間労働が多いことは、あくまでSEおよびIT業界全体に見られる傾向のひとつに過ぎません。勤務先や働き方によっては残業が生じない場合もあります。

2.SEも未払いの残業代請求ができる?

残業が日常的になっているIT業界であっても、未払いの残業代を請求することはできます。一部の企業は、残業代の支払いを避けるために裁量労働制の適用や業務委託などを主張するため、SE自身が請求できることに気付かない場合も少なくありません。

ここでは、SEが未払いの残業代を請求できる理由を紹介します。

2-1.すべてのSEが専門業務型裁量労働制に該当するわけではない

SEが残業代の請求に躊躇する理由のひとつが、会社が導入している専門業務型裁量労働制の存在です。労働基準法施行規則第24条では、SEに専門業務型裁量労働制が適用される条件として「情報処理システムの分析又は設計の業務」と明記されています。プログラム設計の基本となる部分の分析など、一部の高度な業務のみが適用対象です。

そのため、専門業務型裁量労働制はすべてのSEに適用されるものではありません。雇用時に適用されているSEの多くが本来は対象外となり、残業代を請求することができます。

たとえば要求分析や基本設計など、開発の根幹を担う高度な業務は上流工程に分類され、裁量性が必要となることから専門業務型裁量労働制の適用対象です。しかし、プログラミングや単体テストなどを行うプログラマー、結合や運用のテストなど下流工程にあたる業務を担うSEは対象外となります。

2-2.裁量労働制が適用されている場合でも請求できる

専門業務型裁量労働制の適用対象となっている方も、運用状況によっては残業代を請求できる可能性があります。専門業務型裁量労働制を理由に残業代の支払いを避けることができるケースは、適切に運用されている場合のみです。

下記の要件を満たしていなければ、専門業務型裁量労働制が適切に運用されたとは言えないため、残業代を請求することができます。

  • 専門業務型裁量労働制の対象業務を行っている
  • 過半数労働組合や過半数代表者と労使協定を締結している
  • 就業規則または労働協約にて定めている
  • 労働基準監督署に労使協定の届出を行っている

また、上記の要件を満たしているときでも、みなし残業と実働時間に差異がある場合は、時間外労働が生じたとして残業代を請求できる可能性があります。年俸制で契約している方も同様です。

3.SEが会社に未払い残業代を請求する方法

IT業界特有の残業文化など、さまざまな要素によって残業代をスムーズに請求できないSEの方は多いでしょう。口頭で上司に訴えかけても、前述の専門業務型裁量労働制を理由に断られかねません。

スムーズに残業代を支払ってもらうためには、事前準備や手順が重要です。ここでは、SEの方が会社に未払い残業代を請求するときの方法を解説します。

3-1.STEP(1)業界特有の証拠を集める

はじめに、第三者の目から見ても残業代の請求に正当な理由があることを証明できるよう、客観的な証拠を集める必要があります。残業や実働時間を証明する際、一般的な証拠としてあげられるものは下記のとおりです。

  • タイムカード
  • シフト表
  • 業務日誌
  • 本人の日記や記録

これらの証拠に加え、IT業界特有の各記録も集めておくと、会社との交渉や裁判の場で有利に働きます。IT業界特有の記録は、業務で使用していたパソコンなど端末のログやメールの送受信記録などです。オフィスやビルの入退所・入退館記録も役立ちます。

3-2.STEP(2)会社に証拠を送付する

集めた証拠をもとに請求する残業代を計算します。その後、算出した残業代が未払いであることと、請求することを記載した文書に証拠を添え、会社宛てに送付しましょう。

請求時は通常の送付方法ではなく、内容証明郵便を利用することをおすすめします。内容証明郵便とは、郵便局が下記の点を証明してくれる郵送方法です。

  • 送り主(差出人)は誰か
  • 宛先(受取人)は誰か
  • どのような内容の文書を送付したか
  • いつ文書が発送されたか

内容証明郵便は郵便局側が文書の内容や送った事実を証明するものであり、内容の正当性(残業請求が妥当であること)を保証するものではありません。しかし、内容証明で送ることによって、裁判時に残業代を請求した事実の証明に役立ちます。

3-3.STEP(3)会社に訴訟提起する

従業員や退職者本人と会社の交渉のみで完結する場合、内容証明を送ってから1ヶ月前後で残業代が支払われます。しかし、経営者自身が労働契約や各法律を軽視している会社と交渉する場合、スムーズに解決しない可能性も視野に入れて行動するべきです。何の音沙汰もないときや会社側から支払いを断られたときは、裁判所の力を借りましょう。

残業代の請求で裁判所に頼る方法は、労働審判と労働訴訟の2つです。労働審判は有識者の見解を交えつつ非公開で行われるもので、訴訟よりも短い期間かつ安価に行うことができます。

会社との直接交渉や労働審判で解決しない場合は、労働訴訟を選ぶこととなります。会社側と裁判所で争い、最終的に裁判官が判断を下す方法です。

4.確実に残業代を請求したい場合は弁護士に相談することがおすすめ!

残業代の請求は交渉が決裂しやすく、複雑化する可能性もあるため、ひとりで解決することは困難です。割増率を含めた残業代の計算や効果的な証拠集め、会社に送る内容証明郵便の文書など、手続きに専門的な知識を要する場面も多くあります。

手間やストレスが生じるうえ、会社側が徹底的に争う姿勢を見せたときは、スムーズに残業代を支払ってもらえるとは限りません。残業代の請求を確実に行いたい方はひとりで交渉を行わず、弁護士への相談がおすすめです。

弁護士に依頼することで正しい金額で残業代を請求できるだけでなく、複雑かつ手間のかかる作業を代行してもらえます。残業代請求は時効があるため、個人で交渉を続けると時間切れとなってしまう可能性もあります。

時効を迎える前に残業代を支払ってもらえるよう、労働法に関する専門知識と残業代請求の経験を有する弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

まとめ

SEは納期厳守の仕事が多いだけでなく、業界特有の残業文化もあり、長時間労働が日常的になっている状態です。適切な残業代が支払われていない場合も多く、会社側とどのように交渉すべきか悩んでいる方もいるのではないでしょうか。

専門業務型裁量労働制が適用されている場合であっても、慎重に確認すると未払い残業代が生じている可能性はあります。まずは請求できる残業代の有無を知るためにも、専門知識の豊富な弁護士へ相談することをおすすめします。

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