情勢変化などの業績不振により、会社から退職勧奨を受ける人が増えています。「君はこの仕事に向いていないのではないか」などと遠回しに退職を促されるだけでなく、各種ハラスメントや脅迫などによって退職に追い込まれる例も少なくありません。
当記事では会社で退職勧奨が行われる理由と主な退職勧奨の事例、そして退職勧奨を受けてしまったときに取るべき3つの対処法について解説します。退職勧奨について悩んでいる人は参考にしてください。
1.退職勧奨とは?
「肩たたき」とも呼ばれる退職勧奨は、会社側が従業員に対してさまざまな方法で退職を勧めることです。退職勧奨には解雇のような強制力はなく、退職するかどうかの決定権は従業員側にあります。そのため、会社に在籍し続けることを望むなら退職勧奨に従う必要はありません。
1-1.会社が解雇ではなく「退職勧奨」を行う理由
会社が従業員を退職させたいと考える動機は、おおむね以下の通りです。
会社側の問題 | 経営不振による人員削減など |
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従業員側の問題 | 能力不足、重大な規則違反、勤務態度が悪い、周囲とのトラブルなど |
会社が従業員を解雇すると、一方的にその従業員との雇用契約を解消できます。しかし、解雇権の行使には制約が多く、また解雇した従業員とトラブルになることも少なくありません。そのため、従業員を辞めさせたい会社の多くがリスクの低い退職勧奨を行います。
退職勧奨と混同しやすい退職に、希望退職制度(早期退職)があります。希望退職制度は会社が退職金増額や特別手当などを条件に期間限定で退職希望者を募集する制度であり、従業員の意思や退職後の生活を尊重することが特徴です。
1-2.会社都合・自己都合退職の違い
会社側の事情で退職を余儀なくされる会社都合退職に対し、従業員本人の都合による退職は自己都合退職と呼ばれます。会社都合退職と自己都合退職の主な違いは、以下の通りです。
なお、退職金総額については厚生労働省が発表した「大卒・総合職相当・勤続25年(47歳)・事務または技術労働者」のデータ(2019年時点)を記載しています。
主な退職理由 会社都合退職
- 会社の倒産
- 事業所の廃止
- 整理解雇・普通解雇
- 大量離職にともなう退職
- 労働契約内容と実際の状況が大きく異なる
- 事務所移転により通勤が難しくなる
- 社内でのいじめや嫌がらせ
- 賃金の大幅な減少、または長期間の未払い
- 契約期間満了後、本人の意に反して労働契約が更新されない(雇止め)
- 退職勧奨を受けた(早期退職優遇制度などを利用した場合を除く)
自己都合退職 ●労働条件向上やスキルアップなどを目的とした転職
- 独立
- 懲戒解雇
●特定理由離職者(やむを得ない理由による自己都合退職)
- 心身の病気・けが
- 妊娠・出産
- 家庭の事情(結婚、介護など)
退職金総額(平均) 会社都合退職 約1,427万円 自己都合退職 約1,287万円
失業給付金 会社都合退職 ●給付日数
原則として90~330日●受給条件
離職日以前の1年間、通算6ヵ月以上雇用保険に加入していた●待機期間(給付制限期間)
7日自己都合退職 ●給付日数
原則として90~150日●受給条件※
離職日以前の2年間、通算12ヵ月以上雇用保険に加入していた●待機期間(給付制限期間)※
7日+2ヵ月、または7日+3ヵ月※特定理由離職者の場合は、会社都合退職に準じる
その他 会社都合退職 ●退職届の提出
不要 ※一部例外あり●国民健康保険税優遇
あり(2年間まで)●履歴書への記載内容
会社都合による退職自己都合退職 ●退職届の提出
必要●国民健康保険税優遇
なし●履歴書への記載内容
一身上の都合による退職
上の表からわかる通り、会社都合退職は自己都合退職と比べてメリットが大きくなります。もし会社に言われるまま自己都合退職してしまった場合は、早めにハローワークへ相談してみましょう。
2.退職勧奨の主な事例|把握しておくべきポイント2つ
以下は、退職勧奨の主な事例です。
【事例1】直接的な言葉や嫌がらせを受ける
Aさんは上司から「君の考え方は会社勤めに向いていない」などと言われて重要なプロジェクトから外され、パワハラのような仕打ちを受けるようになった。Aさんはしばらく我慢していたもののストレスに耐えかねてうつ病で休職し、そのまま退職を余儀なくされた。
【事例2】重すぎるノルマを課せられる
Bさんが所属する部署のメンバー全員に重い営業ノルマが課せられ、少しでも達成できなかった従業員は皆の前で上司から怒鳴られた。また小さなミスが原因で激しく罵倒されることも日常茶飯事で、Bさんを含め多くのメンバーが職場を去った。
【事例3】責任ある仕事を与えられない
Cさんはある日部署異動を命じられたが、異動先では誰でもできそうな単純作業しか与えられずモチベーションを失って退職した。Cさんだけでなく、この部署へ移ってきた人のほとんどが数ヵ月~1年ほどで辞めていた。
以上のように退職勧奨はさまざまな手口で行われますが、以下のポイントを押さえておくことで冷静に対処しやすくなるでしょう。
2-1.退職勧奨に強制力はない
前述の通り従業員が退職勧奨に応じる義務はないため、退職勧奨を拒否することも可能です。はじめから退職勧奨に同意するつもりがない場合は、曖昧な態度を取るよりもきっぱりと意思表示しましょう。
会社を辞めたい、または辞めてもよいと思っているなら、無理に抵抗せず退職を検討することもひとつの方法です。状況によっては、会社都合退職にしてもらうことや退職金の上乗せなどについて会社に掛け合ってもよいでしょう。
2-2.「退職強要」になると違法行為となる
退職勧奨自体は、必ずしも不法行為にあたるわけではありません。しかし、会社側が従業員に対して以下のような言動を取った場合は、強要罪が適用される「退職強要」とみなされることもあります。
- 長時間の面談を何度も行い、しつこく退職を促す
- 暴力・暴言・脅迫・嫌がらせなどによって退職を迫る
- 従業員からの退職勧奨拒否を無視する
会社側から退職強要を受けた場合は、損害賠償を請求できる可能性があります。
3.退職勧奨を受けたときの3つの対処法
退職勧奨によって大きなショックを受け、会社に対して怒りを覚えることはいたって当然です。しかし、感情的になって上司と喧嘩したり、雰囲気に負けてすぐ退職を決めたりすることは得策ではありません。
万が一会社から退職勧奨を受けた場合は、まず落ち着いて次のように対処しましょう。
3-1.退職勧奨されても、すぐ応じない・拒否する
会社に言われるまま退職届にサインしてしまうと、自己都合退職扱いとなってしまいます。退職の意思がないなら、「辞めたくありません」ときっぱり伝えましょう。退職勧奨されたショックで混乱している場合は、「少し考えさせてください」と返事を保留し、クールダウンすることも重要です。
3-2.退職勧奨の内容を書面でもらうなど証拠を残す
退職勧奨を受けて自己都合退職してしまっても、退職勧奨を受けたと立証できればハローワークで会社都合退職として扱ってもらえる場合があります。退職勧奨を立証する証拠として有効なものは、次の通りです。
- 退職条件を明示した書面
- 退職勧奨に関連する内容のメール
- 退職勧奨に関連する会話・音声の録音データ
- 退職勧奨の状況を詳しく記したメモ 他
退職勧奨を受けた際は、上記の証拠をできるだけ残しておきましょう。
特に、パソコンに保存したデータやメールを証拠として用いる場合は、早めにプリントアウトするなどして手元に保管することをおすすめします。証拠隠滅のためにデータを消されたり、パソコンの利用を制限されたりする恐れがあるためです。
3-3.退職強要の可能性があれば弁護士に相談する
はじめは穏やかな説得でも、退職を断り続けるうちに退職強要へ発展するケースも少なくありません。少しでも退職強要の可能性がある場合は、労働問題に強い弁護士や各種相談窓口への相談をおすすめします。
また、以下に当てはまると認められる場合は、退職届の取消・無効を主張することも可能です。
心裡留保 | 従業員が自らの意思に反して退職届を出し、会社側は従業員に退職の意思がないことを知りながら退職届を受理した |
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錯誤(勘違い) | 従業員が「退職届を出さなければ懲戒解雇される」などと思い込んで退職届を出し、会社側は従業員の勘違いを知りながら退職届を受理した |
詐欺または脅迫 | 会社側から「退職届を出さなければ懲戒解雇する」などと嘘をつかれて脅された |
退職届の取消・無効を主張したい場合も、弁護士などへ相談するとよいでしょう。
まとめ
退職勧奨は言葉による説得や仕事量の大幅な増減などさまざまな手法で行われており、近年は退職勧奨と気付かれにくいケースも増えています。しかし、退職勧奨には法的効力がないため、会社に言われるまま退職する必要はありません。
また、退職勧奨自体は違法ではないものの、状況次第では違法行為にあたる退職強要とみなされます。その場合は、弁護士など専門家への相談がおすすめです。過剰な退職勧奨にお悩みでしたら、ぜひ千代田中央法律事務所に一度ご相談下さい。