従業員が法定労働時間を超えて勤務した場合に残業代を支払うことは、雇用主や経営者の義務です。しかし、本来受け取れるはずの残業代が支給されないままとなっている「未払い残業代」に悩む人が増えています。いわゆるブラック企業では、何かと理由をつけて残業代を支払わないケースが増加しているためです。
この記事では、未払いとなっている残業代のうち、請求が可能なケースや請求までの流れ、請求するメリット・デメリットについて解説します。また、請求する際の主な相談先についても紹介するため、ぜひ参考にしてください。
1.残業代請求が行える主なケース
厚生労働省の調べによると、2019年度の総合労働相談件数は1,188,340件でした。
出典:厚生労働省「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」
相談の事例の中には残業代の未払いに関するものも多く含まれます。未払いの残業代のうち、残業代請求が行える主なケースは下記の通りです。
○法定労働時間を超過した労働に対して、割増賃金の支払いがない場合
1日8時間、週40時間までと定められた法定労働時間を超えて時間外労働を行った場合、1.25倍の割増料金を受け取ることができます。
○深夜や休日の労働に対して、割増賃金の支払いがない場合
22時~5時までの深夜や休日に労働した場合、深夜労働は1.5倍、所定休日は1.0倍、法定休日は1.35倍の割増料金を受け取ることが可能です。
○管理監督者となっているが、実態は「名ばかり管理職」の場合
上司の指揮命令を受けている場合は管理監督者であるとはいえず、残業代を受け取れます。
○フレックス制・みなし残業制を理由に、残業代の支払いがない場合
フレックス制であっても、一定期間の総労働時間が法定労働時間を超過した場合は、残業代を受け取ることが可能です。また、みなし残業制であっても、未払い分が発生している場合は、残業代を受け取れます。
このように、さまざまな理由によって残業代が支払われていないケースがありますが、法律に照らし合わせて、残業代が発生する場合は残業代を受け取れます。
2.残業代請求の主な流れ
未払い残業代請求を行うと決めた際に、最初に行いたいことは「証拠集め」です。もし、会社と裁判となった場合には、証拠の有無が勝敗の決め手となります。
証拠を用意した後は、実際に請求する未払い分を計算するなど、順序だてて請求を行うことが大切です。残業代請求を行う場合は、下記のような流れで行います。
(1)請求に必要な証拠集め | 請求の際に有効な証拠(下記例)を集める
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(2)残業代の計算 | 1時間当たりの基礎時給から残業代を計算し、請求前に金額を確定しておく |
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(3)会社との交渉 | 残業代を請求する場合、まずは会社の担当者と交渉する |
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(4)労働基準監督署への申告 | 会社に残業代を請求しても支払われない場合、労働基準監督署へ申告し、指導勧告してもらう |
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(5)労働審判 | 労働基準監督署からの指導勧告でも支払われない場合、裁判所の労働審判を利用する |
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(6)労働訴訟 | 労働審判でも解決不可能な場合は、会社に対して労働訴訟を起こして未払い残業代の支払いを求める |
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上記のように証拠を集めてから、会社との交渉を始めます。会社との交渉では、直接担当者と交渉するよりも、弁護士など法律の専門家によるサポートを受けたほうが、成功率が高くなります。
また、会社と交渉しても解決できなかった場合は、労働審判や労働訴訟を行う必要があります。労働審判や労働訴訟は、自分一人の力で行うことは困難であるため、弁護士のサポートを受けて行うことが一般的です。
残業代の請求では、証拠集めと並行して、弁護士への相談を行うことで、スムーズに請求手続きを進めることができます。
3.在職中に残業代請求を行うメリット・デメリット
未払い残業代の請求を行うことを決めたものの、迷ってしまう点が「在職中に請求を行うか、退職後に行うか」についてでしょう。ここでは、在職中に未払い残業代請求を行うことについて、メリットとデメリットについて解説します。
メリット |
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○残業に関する証拠が集めやすい・証拠保全を行いやすい 退職後に請求を行うと、会社が証拠を改ざんする可能性があります。在職中であれば、タイムカードや業務日誌、就業規則などのコピーを取ったり、記録を残したりできます。 ○3年間の時効が切れる前に行いやすい 残業代の請求権の消滅時効は3年となっており、たとえ未払いが証明できても3年以上前の分は請求不可能となります。在職中に請求することで、時効前に請求できます。 ○労働条件が改善される可能性がある 法律に基づいて未払い残業代を請求することで、社内の労働条件が改善され、退職せずに働き続けられる可能性もあります。 |
デメリット |
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○会社との関係が悪化する恐れがある 在職中に法律に基づく残業代請求を行うと、会社からは反抗的な社員であると敵視され、会社との関係が悪化する恐れがあります。 ○パワーハラスメントやいじめを受ける恐れがある 上司から暴言を吐かれたり、同僚から陰口をたたかれたりするなど、社内で孤立してしまうことが考えられます。 |
このように、在職中に残業代請求を行うことには、メリットとデメリットがあります。
デメリットとして紹介した「パワハラ・いじめ」は、残業代を支払わないようなブラック企業では、常態化していることが少なくありません。そのため、在職中に残業代請求を行う場合は、転職を検討しながら手続きを進めることをおすすめします。
4.残業代請求を行う際の主な相談先3つ
厚生労働省の調べによると、2019年度に労働基準監督署が監督指導を行った結果、100万円以上の未払い割増賃金を支払った会社は1,611社にのぼります。そのうち1,000万円以上の割増賃金を支払った会社は、161社です。
このように、高額な残業代の未払いがある会社は、数多く存在します。ここでは、残業代請求を行う際の主な相談先について紹介するため、ぜひ参考にしてください。
4-1.労働組合
労働組合とは、個人では弱い立場の一般労働者を守り、会社と労働者個人との間に対等な関係を築くために結成された労働者の団体です。未払い残業代請求を労働組合に相談した場合のメリットとデメリットは、下記の通りです。
メリット
団体交渉で会社に圧力をかけて、労働環境の改善を求めることが可能です。会社には労働組合による団体交渉に応じる義務があるため、未払い残業代などの問題を改善できる可能性があります。
デメリット
労働組合によって、会社に加えられる圧力に差があります。御用組合のように、実質的に経営者によって支配されている労働組合の場合は、問題の解決につながらないことが多い傾向です。
4-2.労働基準監督署
労働基準監督署に相談し、是正勧告によって未払い残業代の支払いを促すことも可能です。しかし、労働基準監督署への相談にもメリットとデメリットがあるため、注意しましょう。
メリット
残業代の未払いなど労働基準法違反がある場合、会社に対して改善を求める勧告や指導を行ってもらえます。
デメリット
労働基準監督署は相談件数が多いため、相談内容が軽いと判断されると、調査してもらえないことがあります。
4-3.弁護士
労働組合や労働基準監督署に相談した場合、ある程度の交渉は自分で行う必要があります。そして、自己主張や交渉が苦手な人の場合は、直接交渉の段階でつまずいてしまうことが少なくありません。
残業代請求などの労働問題で、弁護士に相談することで、会社との交渉や法律的な解釈に関する問題を克服できます。弁護士に相談するメリット・デメリットは、下記の通りです。
メリット
会社との交渉対応を任せることができます。また、正確な法律知識に基づいて、請求できる金額を最大化することが可能です。会社との交渉だけではなく、労働審判や労働訴訟のサポートを受けられます。
デメリット
残業代請求などの労働問題を専門としていない弁護士の場合は、回収がスムーズに進まず、満足できる解決とならないことがあります。
このため、残業代請求を弁護士に依頼する場合は、労働問題に強い弁護士に依頼することをおすすめします。千代田中央法律事務所は、これまでに多くの残業代請求をサポートしてきた労働問題のプロフェッショナルです。現在、未払い残業代について悩んでいる人は、ぜひ労働問題に強い千代田中央法律事務所に、相談してみてはいかがでしょうか。
まとめ
未払い残業代を請求したい場合、最初に行うことは証拠集め・証拠の保全です。在職中に請求することにはデメリットもありますが、3年の時効範囲内に残業代を取り戻せる可能性が高いというメリットがあります。
残業代を請求する際には、労働組合や労働基準監督署、弁護士に相談することがおすすめです。特に、弁護士に相談することで、正確な法律知識に基づき、受け取る権利のある最大額の回収につながります。
残業代請求について悩みを抱えている人は、労働問題で数多くの実績がある千代田中央法律事務所への相談を検討してみてはいかがでしょうか。