労働基準法の改正により、新たな時間外労働の上限規制が決められました。
改正された労働基準法は2020年4月から中小企業でも適用されています。
残業時間の上限規制により、月平均80時間以上の残業をしている場合は違法となります。
また、悪質なケースでは残業代を支払っていない会社もあるため注意が必要です。
今回は、月80時間以上の残業が違法となる理由や、月に80時間以上の残業を続けた場合に起こりうる問題、未払い残業代の請求方法について紹介します。
残業時間に悩んでいる人はもちろん、従業員の労務管理をする上司・経営者もぜひ参考にしてください。
1.なぜ月80時間以上の残業は違法となるのか

労働基準法の改正で、2020年4月より中小企業でも時間外労働の上限規制が行われるようになりました。
以下は、労働基準法が定める「労働時間と休日に関する原則」です。
- 法律で決められている労働時間の限度は「1日8時間」及び「1週間40時間」である
- 法律で決められている休日が毎週少なくとも1回ある
これらを超えて労働させる場合は、「36協定の締結と届出」が必要
法改正前では、時間外労働の上限時間は法的拘束力のない「厚生労働大臣の告示」によって基準が定められていました。
そのため、特別条項付きの36協定を締結すれば、時間外労働の上限を超えても罰則を受けることはありませんでした。
しかし、法改正により時間外労働の上限時間が、告示ではなく法律で明確に規定されました。
以下は、法改正後の時間外労働の上限に関する原則です。
- 時間外労働は月に45時間が上限
- 年間360時間が上限
また、繁忙期などの一時的な事情により、雇用者と労働者が合意する場合は、36協定に特別条項を付けることができます。
ただし、法改正がされたため、特別条項を付けた場合でも以下のことを守らなければなりません。
- 時間外労働が年に720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満かつ、2~6か月の平均が80時間以内
- 月45時間を超える時間外労働ができるのは、年6か月が限度
一般的に「80時間以上の時間外労働は違法」と言われるのは「2~6か月の平均が80時間以内」という規制があるためです。
時間外労働の規則を守らなければ労働基準法違反となり、罰則として6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が課されるため、遵守が必要です。
2.月80時間を超える残業を続けた場合に起こり得るケース

月に80時間の時間外労働を行うと、自分のプライベートな時間を作ることが難しくなり、休息の時間もなくなります。
その結果、身体やメンタルヘルスにも影響を及ぼし、最悪の場合は過労死を引き起こす可能性があるため、注意しなければなりません。
以下では、月80時間を超える残業を継続した場合に起こり得る事態を紹介します。
2-1.プライベートの時間を確保できなくなる
月に80時間以上の時間外労働を行うと、プライベートの時間を確保できなくなります。
月に80時間の残業がある場合、1日当たり3時間半以上の残業をしている計算です。
例えば、9時から18時までの勤務の場合、毎日21時半〜22時近くまで仕事をしています。
通勤時間も考えると、平日夜のプライベートの時間はもちろん、睡眠時間の確保も困難になるでしょう。
また、80時間以上残業する人は、休日出勤も多い傾向にあります。
休日出勤をしなくても、平日の残業疲れを取るために休日は睡眠時間が多くなり、プライベートの時間が少なくなるでしょう。
2-2.心身の病気を引き起こす
月に80時間以上の時間外労働を行うと、心身へ悪影響を及ぼし、脳梗塞・心筋梗塞・うつ病など重篤な病気を引き起こす可能性があります。
また、持病がある際も、月80時間以上の残業をしていれば通院時間の確保が困難です。
さらに、残業過多で睡眠不足状態が続けば集中力や判断力が低下するため、事故を起こす恐れもあります。
自分の命を守るためにも、月80時間以上残業している場合はすぐに労働基準監督署や弁護士に相談しましょう。
2-3.正しく残業代が支払われない
月に80時間以上の残業は、法定労働時間外に当たるため割増賃金の対象となります。
さらに残業時間が深夜である場合、深夜の割増分の加算も必要です。
長時間の時間外勤務をさせる企業の中には、割増賃金を支払っていない会社もあり、れっきとした労働基準法違反になります。
そのため、自分の労働時間は適切に記録に残し、サービス残業は絶対にしないようにしましょう。
3.月80時間の残業を行った場合の残業代の計算方法

自分の残業代が毎月正しく支払われているかを確認するためには、残業代の計算方法を理解することが大切です。
残業代は次の計算式で求められます。
残業代の計算方法 | |
---|---|
基礎時給(※1)✕割増率(※2)✕残業時間 | |
※1:基礎時給…月給÷所定労働時間 ※2:割増率…時間外労働1.25倍・法定休日労働1.35倍・深夜労働1.25倍 |
所定労働時間とは、雇用契約で規定されている1か月当たりの平均労働時間のことです。
所定労働時間が1日8時間であれば、月160~170時間となります。
また、「みなし残業代」として一定の残業時間の残業代を毎月一定額労働者に支払う制度があります。
みなし残業代制度の会社で月80時間以上残業をしている場合、しかるべき残業代が支払われていないケースもあるため、注意しましょう。
4.違法性のある残業による未払い残業代を請求する方法
違法性のある残業を行っており、かつ月80時間を超える残業に対して正しい残業代が支払われていないことが発覚した場合、残業代の請求が可能です。
以下では、未払いの残業代を請求する方法とそれぞれの方法のメリット・デメリットを紹介します。
未払いの残業代を請求したいと考えている人はぜひ参考にしてください。
4-1.自分で会社に交渉し直接請求する
残業代が請求できる期間は、給料の支払い日を基準にして3年間であるため、注意が必要です。
自分で会社に交渉して直接請求する場合、まずは残業代の請求のために請求期間を伸ばす手続きをしましょう。
会社に「配達証明付き内容証明郵便」で残業代を請求する旨を通知することで、半年間請求期間を伸ばすことができます。
続いて、残業時間を証明する証拠を用意し、それに基づいて未払いの残業代を自分で計算します。
その後、残業時間を証拠を基に自分で会社と交渉を行います。
ただし、基本的に会社には顧問弁護士がいるため、弁護士とやり取りを行う場合は専門的な知識が必要です。
【メリット】
- 弁護士費用などがかからない
【デメリット】
- 自分で書類を送ったり、残業代を計算したりしなければならない
- 法律に関する知識が必要となる
4-2.労働基準監督署に相談する
労働基準監督署に相談すると、長時間の時間外勤務や未払いの残業代が認められた場合、企業に対して指導や勧告を行ってくれます。
企業は対応しなければ問題が大きくなる可能性があるため、残業代を支払うケースが多い傾向にあります。
ただし、労働基準監督署の勧告には法的な強制力がなく、弁護士のように企業と交渉を行ってくれることはないため、注意しましょう。
【メリット】
- 企業に対して指導や勧告を行ってくれる
- 相談費用は無料
【デメリット】
- 指導・勧告には法的拘束力がない
4-3.弁護士に依頼する
残業代を請求する際に一番確率の高い方法は、残業代請求に詳しい弁護士への依頼です。
タイムカードや給与明細などの残業時間や給与にまつわる証拠を提供すれば、残業代の計算や企業との交渉などほとんどの行程を弁護士に任せることができます。
また、自分の残業状況が違法かどうか分からない人も、弁護士に相談することで適切なアドバイスをもらうことができます。
【メリット】
- 資料集めなどのアドバイスがもらえ、効率的に動くことができる
- 各書類の作成・企業との交渉を任せられる
- 成功報酬制の弁護士に依頼すると費用が抑えられる
【デメリット】
- 弁護士によって相談だけでも費用がかかることがある
まとめ
労働基準法が改正されたことにより、月平均80時間以上の残業は違法となりました。
長時間の時間外労働は、心身に悪影響を及ぼし過労死に至るケースもある深刻な問題です。
また、残業時間が多い場合は残業代が未払いである可能性もあるため、疑問を感じたら自分で残業代を計算し、必要に応じて弁護士に相談しましょう。
残業代請求をする場合は、専門の知識を持った弁護士への依頼がおすすめです。
「弁護士法人千代田中央法律事務所」は、残業代請求に関する豊富な知識と経験が強みで、相談料や着手金も不要です。
他の法律事務所や労働基準監督署で断られた人の未払い請求実績もある、信頼度の高い法律事務所のため、ぜひ相談してみてください。