うつ病で労災認定は下りる?3つの要件と申請の手順

うつ病で労災認定は下りる?3つの要件と申請の手順

うつ病は、日常生活や仕事にも支障をきたす精神障害の1つです。社会人の中には、仕事がきっかけでうつ病となる人も少なくありません。

労働基準法では、業務上のケガや病気を労災(労働災害)とみなし、会社側は労働者に対して労働災害補償を行うことが義務付けられています。しかし、うつ病で労災保険給付を受けるためには、クリアすべき要件や申請の手順への理解が必要です。

本記事では、うつ病で労災認定されるための要件、労災申請の手順、労災請求に必要となる証拠の具体例について解説します。

1.うつ病による労災認定が難しいと言われている理由

令和元年度の「精神障害の労災補償状況」によると、精神障害の労災認定率は約32%です。

出典:厚生労働省「令和元年度「過労死等の労災補償状況」を公表します」

うつ病による労災認定が難しいと言われる理由は、主に3つあります。

  • 仕事が原因で発症したという証拠が必要となる
  • 医学的な観点による判断が求められる
  • 調査に時間がかかる

うつ病で労災認定を受けるためには、「上司からのパワーハラスメント」「仕事のストレス」など仕事が原因であることを客観的に証明することが大切です。

2.うつ病で労災認定されるために必要な3つの要件

うつ病による労災認定は難しいと言われているものの、近年は業務に関係する精神疾患や自殺が増えていることもあり、労災認定されるケースも徐々に増えています。

厚生労働省が迅速かつ適切な労災認定を行うために定めた認定要件は、下記の通りです。

精神障害の労災認定要件

  • ①認定基準の対象となる精神障害を発病していること
  • ②認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  • ③業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

引用:厚生労働省「精神障害の労災認定」

ここでは、うつ病による労災認定の要件と判断方法について、それぞれ詳しく解説します。

2-1.精神障害を発病していること

うつ病による労災認定は、精神障害を発症していることが1つの判断基準です。精神障害は、疾病の種類ごとに、F0~F9に分類されます。

出典:厚生労働省「精神障害の労災認定」

業務に関連して起こる可能性がある精神障害は、下記の通りです。

  • 気分(感情)障害…うつ病、双極性障害
  • ストレス関連障害…急性ストレス反応、外傷後ストレス障害、適応障害

認知症・アルコール依存症・薬物障害などは、認定基準の対象には含まれません。うつ病は、気分(感情)障害に分類されるため、認定要件に該当します。

2-2.業務による強い心理的負荷があったこと

労災認定の要件を満たすためには、業務による強い心理的負荷があった事実が必要です。強い心理的負荷の有無は、うつ病発症前のおおむね6カ月間の出来事を基に「業務による心理的負荷評価表」を用いて「強・中・弱」で評価します。

業務による心理的負荷につながる「特別な出来事」があった場合は、評価は「強」となり認定要件を満たします。

特定の出来事に該当する主な出来事は、下記の通りです。

  • 生死にかかわるなど極度の苦痛を伴う病気やケガ
  • 極度の長時間労働

特別な出来事がなかった場合は、下記の「業務上の出来事」に当てはめて心理的負荷の強度を総合的に判断します。

主な具体例 評価
  • 業務に関連して他人に重度の病気やケガを負わせた出来事
  • 会社経営に重大な影響を与える失敗と事後対応
  • 業務に関連して悲惨な事故や事件を体験または目撃
  • 業務に関連する違法行為の強要
  • 勤務形態や仕事のペースなどの変化
  • 上司不在中の代行任命

職場の人間関係や業務内容によって、評価が「中」や「強」となるケースも少なくありません。

2-3.業務以外の要因・個体側要因による発病ではないこと

労災認定では、うつ病の発症が「業務以外の要因」ではないことも重要です。心理的負荷は、「業務以外の心理的負荷評価表」を用いて「I・II・III」で評価します。

心理的負荷を評価する具体例と評価例は、下記の通りです。

主な具体例 評価
  • 離婚または別居
  • 重い病気の発症や流産
  • 配偶者や子どもが重い病気を発症または死亡
III
  • 収入の減少や借金返済の延滞
  • 異性関係のもつれ
  • 近隣トラブル
II
  • 夫婦のトラブル
  • 軽度の法律違反
  • 子どもの問題行動
I

業務以外でのストレス強度が高いと判断される場合、労災認定はより慎重に検討されます。

また、アルコール依存症や精神障害の既往歴など個体側要因によるうつ病の発症が考えられる場合は、労災認定が認められません。

3.うつ病で労災申請するときの3つの手順

うつ病で療養補償給付や休業補償給付を受けるためには、労災申請の手順や期間についてイメージしておくことが大切です。

うつ病の労災申請は、他の一般的な労災申請に比べて期間が長くなります。うつ病の労災申請から給付金の支給までにかかる期間の目安は、6カ月~1年以上です。

ここからは、うつ病の労災申請を行う手順について詳しく解説します。労災申請には時間がかかるため、申請を検討している人は早めに手続きを行いましょう。

3-1.医療機関で診察を受け継続的に治療を受ける

うつ病の労災申請には、医療機関による確定診断が必要となります。診断内容や治療の経過が書かれたカルテは、労災認定の証拠として利用することも可能です。まずは、専門医を受診して継続的な治療を受けましょう。

受診する病院は、労災指定病院がおすすめです。労災指定病院と指定がない病院には、下記の違いがあります。

労災指定病院
  • 所定の手続きにより治療費を自己負担せずに済む
  • 労災申請手続きがスムーズとなる
労災指定がない病院
  • 本人負担で治療費を立て替えなければならない
  • 労災は健康保険を使えないため10割負担となる

労災指定病院の一覧は、厚生労働省のホームページから検索が可能です。

3-2.労働基準監督署に申請書を提出する

医療機関による確定診断を受けたら、申請用紙(療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付請求書)に必要な事項を記入して労働基準監督署へ提出します。労災の証拠があれば一緒に提出しましょう。申請書は、労働基準監督署や厚生労働省のホームページから手に入れることができます。

申請書に記載する主な内容は、下記の通りです。

  • 労働者本人の氏名、生年月日、住所
  • 災害の発生状況
  • 指定病院の名称、所在地
  • 事業主による証明

うつ病の労災申請は、会社の協力が得にくい場合が多く見られます。そのため、申請書の提出は自分で行うことが基本です。事業主の証明が得られない場合は、証明を拒否された旨を記載するか提出先監督署へ相談しましょう。

3-3.労働基準監督署による調査で事情聴取を受ける

労災申請から認定までの流れは、下記の通りです。

1 申請書提出
2 労働基準監督署による調査
3 専門部会による判断
4 認定(不認定)の通知

労働基準監督署は、労災に該当するかどうか判断するために申請者・会社関係者・担当主治医などに対して事情聴取を行います。

労働監督署の不認定通知に納得できない場合は、決定通知を知った日の翌日から3カ月以内であれば「労災保険審査請求制度」で再審手続きが可能です。

ただし、労働基準監督署の決定が不当ではないと判断された場合は、審査請求は棄却されます。

4.うつ病の労災請求は「客観的証拠」が大切

うつ病の労災請求において、会社の協力を得ることは難しいため、自分で客観的な証拠を準備しておくことがポイントです。長時間労働やパワハラなどの主張を裏付ける証拠があれば、労災認定されやすくなります。

労災請求に役立つ主な証拠は、次の4つです。

  • タイムカードやPCのログ履歴などの記録
  • パワーハラスメント発言や執拗な叱責などがわかる録音データ
  • 出退勤の時間や上司の発言を記録したノート
  • 会社関係者による供述書

労災認定につながる証拠を集める前に、まずはどのような証拠が役立つのか知っておく必要があります。労働基準監督署や弁護士など、専門知識がある人に相談しながら証拠を集めましょう。

まとめ

うつ病の労災認定は、「仕事が発症の原因と判断することが難しい」「医学的な観点からの判断が必要」などの理由で、認定率が低いことが特徴です。

しかし、認定要件を満たしている場合は、医療機関の確定診断を受けて労働基準監督署へ申請書を提出することで労災認定される可能性が高まります。

労災申請や証拠集めをスムーズに進めたい人は、労働関係の案件に強い弁護士に相談することがおすすめです。うつ病の労災申請を検討している人は、実績が豊富な「千代田中央法律事務所」に相談してみましょう。

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