みなし残業とは、一定時間分の残業代をあらかじめ賃金などに含む制度です。みなし残業を採用している会社であれば、雇用契約書に「基本給〇万円のうち〇万円は固定残業代(みなし残業代)」などの明記があります。
不当な残業や未払い残業代の発生について、会社側に適切な対応を求めるためには、みなし残業の基礎知識を知っておくことが大切です。
この記事では、「みなし残業の上限」や「みなし残業時間の超過による未払い残業代の請求方法」について解説します。
1.みなし残業に上限はある?
みなし残業に上限は設けられていないものの、36協定では時間外労働の上限を1カ月45時間と定めています。
36協定とは、労働基準法36条にある「会社側が労働者に時間外労働を行わせる場合に結ぶ労使協定」です。上限である月45時間を超える時間外労働がある場合、残業となる可能性があります。
会社側は、労働者のみなし残業をみなし労働時間内に抑えることが原則です。
みなし残業が45時間であるにもかかわらず、50時間の残業が発生した場合、会社側は差し引きした5時間分を残業代として支払わなければなりません。36協定に違反した場合、会社側は罰則の対象となります。
2.長時間労働の場合は違法の可能性がある
あまりにも労働時間が長い場合や、以下の状態に当てはまる場合は、みなし残業の違法性が考えられるでしょう。
●基本給に固定残業代(みなし残業)が含まれている
会社側は、基本給と固定残業代(みなし残業代)を明確に区別しなければなりません。「基本給〇万円(固定残業代を含む)」など、残業代や残業時間が不明確な場合は要注意です。
●深夜までの残業や休日出勤があるにもかかわらず割増賃金で支払われない
みなし残業時間を超過した場合は、残業代が発生します。深夜や休日に残業を行えば、割増賃金が支払われる仕組みです。違法性がないか確かめるためにも、割増賃金が正しく計算されているか確かめましょう。
●残業時間を超えているにもかかわらず残業代が支払われない
時間外労働時間がみなし残業時間を超えたにもかかわらず、会社側が残業代を追加で支払わない場合は、明らかに違法です。賃金の追加支給を正しく受けるためには、自身の残業時間を正しく把握しておく必要があります。
ただし、繁忙期や決算処理など、一時的に上限を超えてしまう業種は、特別条項付きで上限時間を延長することが可能です。
特別な事情があって労働者と使用者が合意している場合、時間外労働の上限である月45時間を超えるみなし残業が発生することがあります。
働き方改革関連法で定められた時間外労働の上限は、下記の通りです。
- 年720時間以内
- 複数月平均80時間以内(休日労働を含む)
- 月100時間未満(休日労働を含む)
3.みなし残業時間の超過による未払い残業代を請求するためには?
みなし残業時間の超過や不当な長時間労働など、残業に違法性があると判明した場合は、未払いとなっている残業代を会社側に請求することが可能です。
ただし、未払い残業代請求には時効があります。準備にかかる時間も考えて、早めに行動に移すことが大切です。
●未払い残業代の時効
- 法改正前に発生した残業代…2年
- 2020年4月1日以降に発生した残業代…3年
なかには、社内ルールを隠れ蓑にして請求を逃れる会社もあります。未払い残業代を確実に受け取るためにも、まずは請求手順をイメージして必要な準備をしっかり進めておきましょう。
ここでは、みなし残業時間の超過による未払い残業代の請求手順を紹介します。
3-1.①証拠となるものを複数集める
残業代請求には、証拠集めが重要です。未払い残業代が発生していたことを裏付けるためだけでなく、請求する残業代の金額を正確に計算するためにも、できるだけ多くの証拠を集めましょう。
●証拠となりやすいもの
雇用の取り決めが記載された書類 |
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就業規則のコピー |
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労働時間を証明する資料 |
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残業中の労働内容がわかる資料 |
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収入に関する資料 |
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証拠となるものがない場合は、会社側に提出を求めることができます。とはいえ、正確な労働時間を教えてもらえなかったりデータを改ざんされたりするリスクがあるため、できるだけ自身で証拠を集めておくことがポイントです。
3-2.②残業代を正しく計算する
残業代の金額は、請求手続きを行う前に明らかにしておきましょう。
残業代は、下記の計算式で求めることができます。
<残業代の計算式>
残業代=時給×時間外労働の時間×割増賃金率
時給と割引率の求め方は、下記の通りです。
<時給>
時給(1時間あたりの基礎賃金)=月給÷平均所定労働時間(1カ月あたり)
月給には、通勤手当・家族手当・住宅手当など法律で除外が認められる諸手当は含めません。また、年俸制の場合は、1年間の基礎賃金と所定労働時間で算出します。
<割増賃金率>
労働時間 | 割増賃金率 |
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時間外労働
| 割増なし 1.25倍 |
深夜労働 | 0.25倍 |
法定休日労働 | 1.35倍 |
時間外労働+深夜労働 | 1.5倍 |
法定休日労働+深夜労働 | 1.6倍 |
60時間超(大企業のみ) | 1.5倍 |
例えば、時給1,200円で法定時間外労働時間が70時間ある場合、「1,200×70×1.25=105,000」で残業代は105,000円です。
3-3.③会社と直接交渉または内容証明郵便を送付する
未払い残業代を請求する準備が整ったら、会社側との交渉を始めましょう。
在職中であれば直接話し合いを行うことも可能です。ただし、会社側に「法令順守の意識がない」「話し合いの意思がない」などの理由で交渉が上手く行かないこともあります。
退職を考えている人や、すでに退職している人は、内容証明郵便で請求することも1つの方法です。会社側に内容証明を送付することで、未払い残業代請求を行った証拠を残すことができます。
3-4.④労働基準監督署へ申告する
直接交渉や内容証明の送付を行っても、会社側が未払い残業代の支払いに応じてくれない場合は、労働基準監督署へ申告することも有効です。労働基準監督署では、残業代の計算や相談にも対応してくれます。
ただし、未払い残業代の証拠が不十分で会社側に違法性が認められない場合、労働基準監督署は動いてくれません。確実に未払い残業代を回収するためには、事前準備が大切です。
3-5.⑤労働訴訟で未払い残業代の支払いを要求する
交渉が思うように進まない場合は、労働訴訟で解決を目指す方法もあります。労働訴訟は、労働問題に特化した法的効力がある手続きです。未払い残業代の発生が明らかになれば、裁判所が会社側に残業代の支払いを命じる判決が下ります。
労働訴訟で有利な判決を受けるためには、労働基準監督署への申告と同様に、未払い残業の証拠を提出できるかどうかが大きなポイントです。
4.みなし残業時間の超過による未払い残業代は弁護士に相談しよう!
みなし残業時間の超過による未払い残業代の請求は、自分で進めることができます。しかし、証拠を集めたり交渉を行ったり、手間と時間がかかる点がデメリットです。また、社内ルールを理由に支払いに応じてもらえず、交渉が失敗することも少なくありません。
未払い残業代を確実に回収するためには、自分で進めるよりも弁護士に相談することがおすすめです。
未払い残業代の請求を弁護士に依頼するメリットは、主に3つあります。
- 専門知識や経験が豊富な弁護士が対応してくれる
- 複雑な残業代の計算も正確に行ってもらえる
- 自分で行うよりもスピーディーに解決できる
弁護士への依頼費用が心配な場合は、完全成功報酬型の弁護士事務所がおすすめです。「証拠が少ない」「みなし残業時間が超過しているのかわからない」など、みなし残業の悩みを抱えている人は、気軽に弁護士に相談してみましょう。
まとめ
みなし残業時間の超過による未払い残業代があるかどうか判断する目安の1つが、時間外労働が45時間を超えているかどうかです。特別な事情を除き、月45時間以上の長時間労働が発生している場合は、みなし残業の違法性が疑われます。
みなし残業時間の超過による未払い残業代は、適切な手続きによって回収可能です。自分で手続きを行うこともできますが、スムーズに手続きが進まないこともあります。確実に未払い残業代を回収するためには、知識と経験が豊富な弁護士に相談してみましょう。