変形労働時間制でも残業代は発生する

変形労働時間制でも残業代は発生する

繁閑の差が大きい業種においては,変形労働時間制を導入すれば,繁閑に合わせて所定労働時間を自由に設定できるため,使用者側のメリットは大きいです。

一方で, 1日8時間や,1週間40時間以上の労働をしていても時間外割増賃金を支払う必要はなくなるため長時間労働の温床になりかねません。

そのため,労働基準法は,変形労働時間制に厳格な規制を設けています。

変形労働時間制とは

変形労働時間制とは,一定の期間(1カ月,1年,1週間)につき,1週間当たりの平均所定労働時間が法定労働時間を超えない範囲内で,1週または1日の法定労働時間を超えて労働させることを可能とする制度をいいます。

これは,労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化し,週休2日制の普及,年間休日日数の増加,業務の繁閑に応じた労働時間の配分等を行うことによって労働時間を短縮することを目的としています。

しかし,労働基準法37条が,使用者に対して,厳格な労働時間の管理及び法定時間外労働に対しては割増賃金の支払い義務を課すことで,労働時間の遵守を徹底していることからすれば,この変形労働時間制は,使用者の業務上の必要性に配慮した例外的な措置であるといえます。

そのため,変形労働時間制が法律上有効となるためには,以下の厳格な要件を満たす必要があります。

この変形労働時間制が認められると,あらかじめ特定された日や週において,1日8時間,1週間40時間以上の労働をしても時間外割増賃金を支払う必要はないことになります。

ただし,変形労働時間制は労働時間に関しての例外規定に過ぎないため,休日労働や深夜労働に対する割増賃金の支払い義務は依然として存続いたします。

1か月単位の変形労働時間制について

1か月単位の変形労働時間制とは,1カ月以内の一定期間を平均して,1週間あたりの労働時間が40時間を超えない範囲で,特定された週または日において法定労働時間を超えて労働させることができる制度をいいます。

【適用要件】

1か月単位の変形労働時間制が有効であるためには,労使協定等または就業規則等で,以下の事項を定めるとともに,労働者に周知させることが必要となります。

  • 変形期間(1カ月以内の一定期間)及びその起算点
  • 変形期間(1カ月以内の一定期間)における各日・各週の労働時間

(※)変形期間を平均して1週間当たりの所定労働時間が40時間以内であることが必要となります。

(※)業務内容から,月毎に勤務割(シフト表など)を作成する必要がある場合は,就業規則において各勤務の始業終業時刻,各勤務の組み合わせの考え方,勤務割表の作成手続および周知方法等を定めておき,それに従って各日の勤務割を変形期間の開始日までに具体的に特定していれば足りるとされています。

労働時間の変更の可否について,

使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更するような制度は労働時間の特定を欠き,変形労働時間制の適用は受けないとされています。

例外的に,就業規則において,「労働者からみてどのような場合に変更が行われるかを予測することが可能な程度に変更事由が具体的に定められていること」や,「業務上やむを得ず変更が許される例外的,限定的事由を具体的に定められていること」が必要とされております。

なお,以上の定めが労使協定等でなされている場合,別途就業規則や労働協約等で定めることが必要となります。

これは,労使協定の締結により,変形労働時間制を採用することが労基法に違反しないことにはなりますが,同制度より発生する労働等の義務を負わせるためには,使用者と労働者の間での合意が必要であるからです。

1年単位の変形労働時間制について

1年単位の変形労働時間制とは,1カ月を超え1年以内の一定期間を平均して,1週間あたりの労働時間が40時間を超えない範囲で,特定された週または日において法定労働時間を超えて労働させることができる制度をいいます。

【適用要件】

1年単位の変形労働時間制が有効であるためには,労使協定等で,以下の事項を定めることが必要となります。1カ月単位の変形労働時間制と異なり就業規則で定めることはできません。

  • 対象となる労働者の範囲
  • 対象期間(1カ月を超え1年以内の期間)及びその起算点
  • 特定期間(対象期間中の特に業務が繁忙な期間)及びその起算点
  • 対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間

また,労働日・労働時間について,以下の要件を満たす必要があります。

  • 対象期間における1日の所定労働時間が10時間を超えないこと
  • 対象期間における1週間の所定労働時間が52時間を超えないこと
  • 対象期間における連続して労働させる日数が6日を超えないこと
  • 特定期間における連続して労働させる日数が12日を超えないこと

(※)対象期間が3カ月を超える場合は,「所定労働日数を1年あたり280日の範囲内にすること」,「対象期間において,所定労働時間が48時間を超える週が連続3週間以下であること」,「対象期間を初日から3カ月ごとに区分した各期間において,所定労働時間が48時間を超える週が合計3週間以下であること」が必要となります。

(※)対象期間を1カ月以上の期間に区分することとした場合は,

「最初の期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間,最初の期間を除く各期間における労働日数及び総労働時間」,「最初の期間を除く各期間について,各区分期間の初日の少なくとも30日前に,労働組合等の決議に基づき,各期間における労働日数と総所定労働時間を超えない範囲内で,労働日および労働日ごとの所定労働時間を,書面により定めること」が必要になります。

労働時間変更の可否について,

特定された日または週の労働時間を対象期間の途中で変更することはできず,仮に,労使協定において,労使が合意すれば対象期間中であってもこれらを変更することができる旨定めたとしても変更は許されません。

派遣労働者の場合,

派遣労働者を,1年単位の変形労働時間制のもと派遣先で働かせるためには,派遣元において労使協定を締結し,①対象期間を平均し1週間の労働時間が40時間を超えない範囲で,②労働日および労働日ごとの労働時間を具体的に定める必要があります。

なお,労働者に義務を負担させるうえで,当事者間の合意が必要なため,別途就業規則や労働協約に定める必要がある点は,1カ月単位の変形労働時間制の場合と同様です。

1週間単位の変形労働時間制について

1週間単位の変形労働時間制とは,小売業,旅館,料理,飲食店の事業であって,従業員数が常時30人未満の場合において,1週間の所定労働時間が40時間以内であれば,1日について10時間まで所定労働時間を設定できる制度をいいます。

この変形労働時間制が有効になるためには,以下の要件を満たす必要があります。

【適用要件】

  • 小売業,旅館,料理店および飲食店の事業であること
  • 常時使用する労働者の数が30人未満であること
  • 労使協定等で,1週間の所定労働時間として40時間以内の時間を定めること
  • 労働者に対して,1週間の各日の労働時間を,当該期間が始まる前に書面で通知すること

労働時間変更の可否について,

緊急でやむを得ない事由がある場合には,使用者は,前日までに書面で当該労働者に通知することにより,あらかじめ通知した労働時間を変更することができます。 ここでいう緊急でやむを得ない事由がある場合とは,使用者の主観的な必要性ではなく,台風の接近,豪雨等の天候の急変等客観的事実により,当初想定した業務の繁閑に大幅な変更が生じた場合をいいます。

変形労働時間制の適用除外

妊産婦

使用者は,妊産婦が請求した場合は,変形労働時間制をとっていたとしても,1週間40時間および1日8時間といった法定労働時間を超えて労働させてはならない。

育児,介護への配慮

使用者は,変形労働時間制を採用している場合であっても,育児や介護を行う者が,育児や介護のための時間を確保できるように,労働時間に配慮する必要があるとされています。

満18歳未満の者

満18歳未満の者については,原則として,変形労働時間制を適用することはできません。 もっとも,満15歳から18歳未満の者については,満18歳に達するまでの間,1週間について48時間,1日について8時間を超えない範囲内において,1カ月単位または1年単位の変形労働時間を適用することが許されています。

まとめ

以上のように,繁閑の差が大きい業種の使用者にとっては,変形労働時間制を導入することで繁閑に応じて柔軟に労働力を配置をすることができ経済的であり合理性を有しています。

一方で,無制限に認めてしまうと,時間外労働に対して割増賃金の支払いを義務付け,労働時間の適正化を重視する労基法を骨抜きにしかねません。

そのため,労基法は,変形労働時間制を適用するための有効要件を細かに定めています。

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