裁量労働制のもと残業代請求が認められるためには

裁量労働制のもと残業代請求が認められるためには

裁量労働制には,「専門業務型」と「企画業務型」の2種類がございます。これら裁量労働制が認められると,実労働時間にかかわらず「みなし時間」だけ労働したものとみなされ,みなし時間が1日8時間を超えない場合には,時間外労働に対する残業代を請求することはできないことになります。

もっとも,裁量労働制は,労基法のもとでは例外的扱いになりますため,有効といえるためには細かな要件を満たす必要があります。

裁量労働制とは

裁量労働制とは,業務の性質上その遂行方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要がある場合に,実労働時間とは関係なく,一定の定められた時間を労働したものとみなす制度をいいます。

そもそも,労基法37条は,使用者に対して,時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを義務付けていますが,この趣旨は,使用者に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働等を抑制し,もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,労働者への補償を行おうとすることにあります。

このように労基法は,労働時間に対して厳格な規制を設けているところ,裁量労働制は,労働者の取り扱う業務の性質上の特性から,例外を認めるものになります。

そのため,裁量労働制が認められるためには,厳格な要件を満たす必要があります。

この裁量労働制には,「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2つがあります。

以下,それぞれについて解説していきます。

専門業務型裁量労働制

概要

業務の性質上その遂行の大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため,当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し,使用者が具体的な指示をすることが困難な場合には,使用者が労働者を指揮監督し労働時間を管理することは困難であるため,実労働時間に関係なく,あらかじめ定められた時間をもって労働時間とみなす制度をいいます。

あくまで法律上の例外的規定であるため,有効となるためには,以下の要件を満たしてはじめて有効となります。

適用要件

「対象業務」に従事したこと

労働者が,専門業務型裁量労働制の対象として厚生労働省令の定める業務(対象業務)に従事したことが必要となります。

  1. 新商品や新技術の研究開発業務,人文・自然科学の研究業務
  2. 情報処理システムの分析または設計の業務
  3. 新聞・出版の記事の取材・編集,放送番組制作の取材・編集の業務
  4. 衣服,室内装飾,工業製品,広告等の新たなデザインの考案の業務
  5. 放送番組,映画等の制作のプロデューサー・ディレクターの業務
  6. 厚生労働大臣の指定している14業務

(※)コピーライターの業務,システムコンサルタント等の業務,インテリアコーディネーター等の業務,ゲーム用ソフトウェアの創作の業務,証券アナリスト等の業務,金融工学等の知識を用いた金融商品の開発業務,大学の教授研究の業務,公認会計士の業務,弁護士の業務,建築士の業務,不動産鑑定士の業務,弁理士の業務,税理士の業務,中小企業診断士の業務

裁量労働制は,あくまで例外的規定であることから,「対象業務」は限定列挙と解されており,これら以外の業務で専門業務型裁量労働制を定めることは許されません。

また,形式的には「対象業務」に該当するとしても,実質的に補助的業務しか行っていない場合や,対象業務以外の雑務にも多くの時間従事しているような場合には,専門業務型裁量労働制は認められないことになります。

労働者が,これら「対象業務」に従事しているとしても,直ちに専門業務型裁量労働制が認められるわけではなく,労使協定の締結,就業規則または労働協約の定めの要件を満たす必要があります。

労使協定の締結

労基法38条の3第1項各号に規定されている事項について,事業場における労使協定を締結していることが必要となります。

具体的には,以下の事項について労使協定を締結する必要があります。

  1. 上記「対象業務」のうち,労働者に就かせることとする業務
  2. 対象業務に従事する労働者の労働時間とみなされる時間
  3. 対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定に関して,当該労働者に対して使用者が具体的な指示をしないこと
  4. 対象業務に従事する労働者の労働時間に応じた健康,福祉を確保するための措置を労使協定で定め,使用者が講ずること
  5. 対象業務に従事する労働者からの苦情処理に関する措置を労使協定に基づき使用者が講ずること
  6. 労使協定の有効期間の定め,上記④⑤に関する労働者ごとの記録を有効期間中および有効期間満了後3年間保存すること

労使協定は,事業所ごとに適用されるため,専門業務型裁量労働制に関する労使協定についても事業所ごとに定める必要があり,他の事業所の労使協定を適用することはできないとされています。

就業規則または労働協約の定め

専門業務型裁量労働制の定めが,就業規則または労使協約に置かれていることが必要となります。

専門業務型裁量労働制について労使協定を締結することで,同制度を採用することが労基法に違反しないことにはなりますが,個別の使用者と労働者の関係で専門業務型裁量労働制による義務を発生させるためには,当事者間で合意しておく必要があります。

具体的には,就業規則または労働協約に定めることによって,労使間の合意内容とする必要があります。

効果

専門業務型裁量労働制の要件を満たした場合,実労働時間に関係なく,協定みなし時間だけ労働したものとみなされることになります。

そのため,仮に,協定みなし時間が8時間とされていた場合には,実労働時間が11時間であったとしても,8時間労働とみなされるため,法定時間外労働に対する割増賃金は発生しません。

一方で,協定みなし時間が10時間とされていた場合には,実労働時間が7時間の日があったとしても,10時間労働したものとみなされ,1日8時間を超える分については,法定時間外労働として割増賃金を請求できることになります。 なお,裁量労働みなし労働時間制は,労働時間に関する例外的取り扱いであるため,深夜労働や休日労働に対する割増賃金の支払い義務まで免除されるものはありません。

企画業務型裁量労働制

概要

業務の性質上その遂行の大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため,当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し,使用者が具体的な指示をすることが困難な場合には,使用者が労働者を指揮監督し労働時間を管理することは困難であるため,実労働時間に関係なく,あらかじめ定められた時間をもって労働時間とみなす制度をいいます。

あくまで法律上の例外的規定であるため,有効となるためには,以下の要件を満たしてはじめて有効となります。

適用要件

労使委員会の決議と届出

事業所に設置された労使委員会が,労基法38条の4第1項各号に定める事項について,委員の5分の4以上の多数により決議をし,かつ,使用者が当該決議を労基署長に届け出ることが必要となります。

労基法38条の4第1項各号に定める事項とは,具体的には,以下の事項となります。

  1. 企画業務型裁量労働制の対象となる業務
  2. 対象となる労働者
  3. 対象労働者の労働時間とみなされる時間
  4. 対象業務に従事する労働者の労働時間に応じた健康,福祉を確保するための措置を労使協定で定め,使用者が講ずること
  5. 対象業務に従事する労働者からの苦情処理に関する措置を労使協定に基づき使用者が講ずること
  6. 対象業務に対象労働者が従事した場合に,上記③に定める時間労働したとすることについて当該労働者と同意を得なければならないこと,及び,同意しなかった場合に不利益な取り扱いをしてはならないこと

労使決議の有効期間の定め,上記④⑤に関する労働者ごとの記録を有効期間中および有効期間満了後3年間保存すること

「対象業務」に従事したこと

事業の運営に関する事項についての企画,立案,調査および分析の業務であって,当該業務の性質上これを適切に遂行するためにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため,当該業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務として,労使間で決議した業務に従事することが必要となります。

労働者の裁量にゆだねる必要がある場合とは,使用者の主観で判断するのではなく,当該業務の性質に照らして客観的に必要性があるかを判断することになります。

(※)専門業務型裁量労働制は対象業務が限定列挙されていましたが,企画業務型の場合は限定列挙されておらず,労使間で決議することが必要となります。

(※)対象業務以外の業務に従事した場合は,企画業務型裁量労働制の適用はないため,みなし時間ではなく,実労働時間が労働時間として把握されることになります。

「対象労働者」に該当すること

事業の運営に関する事項についての企画,立案,調査および分析等の対象業務を,適切に遂行するための知識,経験等を有する労働者であることが必要となります。

この対象労働者の範囲については,恣意的な運用を防止するためにも,範囲を特定するために必要な職務経験年数,職能資格等の基準を設けておく必要があり,対象業務に常に従事していることが必要とされています。

なお,大学新卒の労働者で全く職務経験のないものは対象労働者に該当せず,少なくとも3~5年程度の職務経験を有していることが前提として必要とされます。

そのため,仮に,労使決議により知識・経験等を有しない労働者を対象労働者に含めるとしても有効な裁量労働制としてみなし時間を主張することはできないことになります。

労働者の個別の同意

労基法の文言上は,労働者の個別の同意が必要とは規定されていませんが,個別同意は必要とし,個別同意がない場合は企画業務型裁量労働制の要件は満たさず,みなし時間の適用はないことになります。

就業規則または労働協約の定め

企画業務型裁量労働制についても,上記適用要件を満たした場合は労基法違反とはなりませんが,使用者と労働者に,企画業務型裁量労働制からくる義務を負担させるためには,当事者間の合意が必要となります。 当事者の合意として,就業規則または労働協約の定めが必要となります。

効果

企画業務型裁量労働制の要件を満たした場合,実労働時間に関係なく,決議みなし時間だけ労働したものとみなされることになります。

そのため,仮に,決議みなし時間が1日8時間以内の場合には,実労働時間が8時間以上であったとしても,法定時間外労働に対する割増賃金は発生しないことになります。

一方で,協定みなし時間が1日8時間を超えている場合には,超える分については法定時間外労働として割増賃金を請求できることになります。

また,深夜労働や休日労働に対する割増賃金の支払い義務が免除されない点についても,専門業務型裁量労働制の場合と同様となります。

まとめ

以上のように,裁量労働制が認められるためには,労基法等に定められた細かな要件をすべて満たす必要があります。

そのため,残業代請求に対して,使用者が裁量労働制を主張してきた場合には,労働者としては裁量労働制の有効要件を満たさないことを根拠を示して主張していくことが必要になります。

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