事業場外みなし労働時間制の主張が認められる場合

歩合給でも残業代の支払い義務は免除されない

労働者の実労働時間の主張に対して,使用者が「営業職にあるためみなし労働時間制が認められる」といったみなし労働時間制の主張をすることがあります。

この事業場外みなし労働時間が認められると,実労働時間に関係なく所定労働時間が労働時間とみなされることになります。

では,どのような場合に,事業場外みなし労働時間制が認められるのでしょうか。

みなし労働時間制とは

みなし労働時間制とは,

  1. 事業場外労働
  2. 専門業務型裁量労働制
  3. 企画業務型裁量労働制

上記に該当した場合に,労働時間を,実労働時間ではなく,みなし労働時間だけ労働したとして取り扱うことができる制度をいいます。

これは労働時間について厳格な規制を設けた労基法の例外的な取り扱いと位置付けられます。

そもそも,労働基準法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは,使用者に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働等を抑制し,もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解されます。

みなし労働時間制は,この労基法の労働時間規制の原則を一部免除する例外的場面に該当するため,その要件を満たすかについては,厳格に判断されることになります。

なお,みなし労働時間制は,あくまで労働時間規制のうち労働時間の算定方法について適用されるものです。 休日,深夜割増賃金等の労働時間規制の適用は引き続き受けるため,休日,深夜割増賃金については,みなし労働時間制で支払い義務が免除されることはありません。

事業場外のみなし労働時間制(事業場外みなし制)について

制度趣旨

業務内容が,旅行の添乗員や,外交セールス,営業,新聞記者など,事業所など職場以外の場所(事業場外)で業務に従事する場合,使用者の具体的な指揮監督が及ばず,実労働時間を把握することが困難な場合があります。

そのような場合にまで,使用者に,厳格な労働時間の管理を義務付け割増賃金支払い等の義務を課すことは,使用者に困難を強いることになり妥当性を欠く場合もあります。

そのため,労働者が事業場外で労働し,使用者が労働時間の管理をすることが困難といえる場合には,使用者による実労働時間の把握義務を免除し,労働時間を一定のみなし時間とする制度を言います。

もっとも,あくまでみなし労働時間制は,労基法による労働時間規制の例外的場面であるので,以下の要件を満たす必要があり,実務上は,厳格に判断されることになります。

適用要件

事業場外で業務に従事したこと

事業場外みなし制が認められるためには,労働者が「労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合」であることが必要となります。

この要件を充たすかは,使用者の具体的な指揮監督が困難であり,労働時間の把握義務を免除させてもよいかという視点から判断することになります。

そのため,事業場外労働は,常態的に事業外での労働が行われるだけではなく,一時的なものや出張等も含まれます。

労働時間を算定しがたいこと

労働者が事業場外で業務に従事したとしても,使用者が労働時間を把握でき,労働時間を算定することができる場合には事業場外みなし制の適用はないことになります。

そのため,事業場外みなし制が適用されるためには,労働者が事業場外で業務に従事し,かつ,「労働時間を算定し難いとき」といえることが必要となります。

では,「労働時間を算定し難いとき」とは,どのような場合をいうのでしょうか。

この点,旧労働省は通達で,以下のような場合には,使用者の具体的な指揮監督が及んでおり,労働時間の算定は可能なため,みなし労働時間制の適用はないと示しています。

① 何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で,そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合

② 事業場外で業務に従事するが,無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合

③ 事業場において,訪問先,帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち,事業場外で指示どおりに業務に従事し,その後事業場にもどる場合

上記①~③の場合は,実務上も,「労働時間を算定し難いとき」には該当しないと認められやすいです。

では,上記①~③以外の場合,「労働時間を算定し難いとき」に該当するかは,どのように判断されるのでしょうか。

事業場外みなし制が認められた趣旨は,使用者の具体的な指揮監督が及ばず,実労働時間を把握することが困難であることにあります。

とすれば,労働者が従事する業務の内容,当該業務における使用者の労働者に対する指示の有無・内容,労働者から使用者に対する報告の有無・内容等の事情を総合的に考慮して,使用者の労働者に対する指揮監督が具体的に及んでいるといえる場合には,実労働時間を把握し算定することが困難とまではいえないため,「労働時間を算定し難いとき」には該当しないといえるでしょう。

このように一義的に判断できるというよりは,個別具体的な事業から総合的に判断することが必要となります。

なお,行政解釈は,労働者が自宅で情報機器を用いて在宅勤務する場合,「原則として,①当該業務が,起居寝食等私生活を営む自宅で行われること,②当該情報通信機器が,使用者の指示により常時通信可能な状態に置くこととされていないこと,③当該業務が,随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと,のすべての要件を満たす限り,事業場外みなし制の適用がある」としています。

効果

事業場外みなし制の適用が認められた場合,「所定労働時間」が労働時間とみなされ,時間外割増賃金は発生しません。

「通常必要時間」が所定労働時間を超えている場合,「通常必要時間」が労働時間とみなされ,通常労働時間が法定労働時間を超過している場合には,超過部分について割増賃金が発生します。

「通常必要時間」とは,行政解釈では,「通常の状態でその業務を遂行するために客観的に必要とされる時間」をいうとされています。

もっとも,事業場外みなし制の趣旨は,労働者が事業場外で労働し,使用者が労働時間の管理をすることが困難といえる場合に,例外的に,使用者による実労働時間の把握義務を免除することにあるため,みなし労働時間はできる限り実労働時間に近くあるべきとされています。

そのため,通常必要時間は,事業場外労働の実態を検討したうえで算定することになります。

労使協定によって通常必要時間と定めた場合,「協定必要時間」が労働時間とみなされます。 この「協定必要時間」が認められるためには,

  • 業務を遂行するためには所定労働時間を超えて労働することが必要であること
  • 当該業務について協定必要時間を定めた書面による労使協定が締結されたこと
  • 労使協定によって労働時間をみなす旨の定めが就業規則または労働協約で定められていること

上記を主張・立証する必要があります。

まとめ

事業場外みなし制が問題になる場合,タイムカードといった客観的資料が少ない場合も多いですが,使用者側がみなし労働時間制を主張してきた場合には,労働の実態と,それから導かれる通常必要時間を主張立証する必要があります。

その他,みなし労働時間制について

裁量労働制については,コラム「 裁量労働制のもと残業代請求が認められるためには」をご参照ください。

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