残業代請求における労働時間とは(労働時間該当性について)

残業代請求における労働時間該当性について

残業代請求の場面では,労働者側は「休憩中も実際には労働していた。」との主張や,会社側からは「15時から17時までは,ほとんどお客も来なく自由にしていたので労働していない。」といった主張がなされることが多く,労働基準法上の「労働時間」に該当するかが争点になることが多いです。

そこで,労働基準法における「労働時間」とは,どのような概念であるかを検討していきます。

労働基準法における労働時間とは

「労働時間」とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。

この労働時間に該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって,労働契約,就業規則,労働協約等の定めにより決定されるべきものではないとされています。

ただ,業務性があったとしても,使用者が明示的に残業を禁止しているにもかかわらず,知らされないままに労働者が勝手に業務を行った時間を労働時間から排除するため,労働時間といえるためには,使用者の明示または黙示の指示を要するとされています。

労働時間該当性が問題となることが多い点を,以下,検討していきます。

始業時間と終業時間

始業時間前の準備行為等や,終業時間後に必要な行為等が,「労働時間」に該当するかについても,前述同様,その作業に携わった時間が,使用者の指揮命令下に置かれたものと客観的に判断できるかで判断していくことになります。

具体的には,以下の場合は,使用者の明示又は黙示の指示があり,労働者の判断で避けることができないため,使用者の指揮監督下に置かれていたものとして「労働時間」に該当します。

  1. 始業時間前に作業衣等の着用が義務付けられ,更衣室や所定の場所で行うこととされている場合の着替え・更衣室からの移動に要する時間
  2. 始業前,終業後に駅員としての業務の準備等として点呼が義務付けられている場合の点呼に要する時間
  3. 使用者による明示又は黙示の指示で行われる始業前の朝礼時間
  4. 始業前,終業後に作業上必要な機械点検を行う必要がある場合
  5. その他,使用者の明示又は黙示の指示により従事していた始業前の準備作業や,終業後の後片付け等に要した時間

一方で,業務性が否定され,使用者の指揮命令が明示・黙示にもあるとはいえない場合には,労働時間性は否定されます。

具体的には,単純な始業前,終業後の入門・退門に要する移動時間などがそれに該当します。

手待時間か休憩時間か

手待時間であれば残業代算定の基礎となる「労働時間」に該当しますが,休憩時間となれば「労働時間」には含まれないことになります。

その時間が,手待時間か休憩時間かは,使用者の指揮命令下に置かれていたか否かで判断されることになります。

具体的には,使用者の指示があれば直ちに業務に従事する必要があるか否か,休憩時間という名目だけでなく実質的に労働者に自由利用が保証されているか,といった点から判断することになります。

このように,手待時間か休憩時間かは,形式的一義的に判断できるものではなく,個別に実質から判断する必要があります。

例えば,休憩時間とされていても,休憩場所は店内ないし指定喫煙所とされており,客が来店した際は対応する必要がある場合には,手待時間として労働時間に該当します。

また,昼休みの間,来客対応の当番や,電話当番をさせていれば,実際に来客や電話がなかったとしても手待時間として労働時間に該当します。

その他,タクシー運転手の客待ち待機時間,事業場内での仮眠時間等について,問題になることが多いです。

使用者の指示がない場合の時間外労働

使用者の明示又は黙示の指示のある時間外労働は,使用者の指揮監督下にあるといえ,労働基準法上の労働時間に該当する。

そのため,労働者が就業規則などと異なる出退勤を行っていたが使用者が異議を述べずに黙認していたような場合には,黙示の指揮命令があったとして,時間外の「労働時間」に該当する。

また,所定労働時間内には到底終わらないほどの業務量で,残業が常態化しているような場合には,使用者の黙示の指揮命令があったとして,時間外の「労働時間」に該当する。

このように,明示又は黙示の指示がある場合には,就業規則等で,「残業する場合には,所属長の承認を得ることが必要」といった旨の規定が存在していたとしても,実質的には,指揮命令があったとして「労働時間」に該当することになります。

一方で,使用者により残業を禁ずる旨の明示の表示があったにもかかわらず,残業した場合には,使用者の指揮命令があったとはいえないため「労働時間」には該当しないことになります。そのため,残業代を計算する際に,時間外の労働時間として把握することはできないことになります。

自宅持ち帰り残業

労働者の私的な生活拠点である家庭において行われる持ち帰り残業は,家庭における私生活上の行為と,労務提供行為を峻別することが困難であるし,場所的・規律的な拘束も受けることはないため,使用者の指揮命令下の労働とは認められず,原則として,労働基準法上の「労働時間」には該当いたしません。

そのため,自宅で持ち帰り残業していたとしても,原則として,当該業務をしていた時間を労働時間であるとして,残業代請求することは困難と言わざるを得ません。

移動時間の労働時間性

通勤は,労務を提供する準備行為にすぎず業務性を欠き,通常は自由利用が保証されているため,「労働時間」には該当しないのが一般的です。

もっとも,使用者の事務所と作業現場を移動する際,移動時間の自由利用が保証されていないといった具体的事情がある場合には,労働時間性が肯定される場合もございます。

休日に出張先に出張した場合の,出張前後の移動時間については,出張の目的が運搬そのものであり,対象物を監視しなければならないといった場合を除いては,自由利用が保証されているのが一般的であるため労働時間には該当しないことになります。

研修等への参加

研修等への参加が,「労働時間」に該当するかについて,「労働者が使用者の実施する教育に参加することについて,就業規則上の制裁等の不利益取扱いにより出席の強制がなく自由参加のものであれば,時間外労働にはならない」と解釈されております。

そのため,企業外研修等への参加が,使用者の明示又は黙示の指示がある場合や,参加しないことで不利益な評価を受ける等の場合には,事実上,参加が強制されていたといえるため,労働時間性が認められることになります。

一方で,参加しないことによる不利益がなく,自由参加が保証されているような場合には,労働時間性は否定されることになります。

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